中山の冬季湛水田のシカに踏み荒らされた田んぼで、籾の半分以上はシカやサルに食べられてしまっている田んぼだ。荒らされているからといって放っておくわけにもいかず、台風が来る前に刈り取る段取りがようやくできた。
昼前から女房と二人で、踏み荒らされたイネと格闘する。シカに踏みつけられているので、籾も泥だらけ。発芽してしまった籾も多い。抑草はうまくいっていたのだが、最後にシカに目をつけられてしまい、徹底的に荒らされてしまった。もっと丈夫な網を張るとかして、防ぐ手だてもあっただろうが、時間と資材が無くやれずじまい。本当にもったいないことをしてしまったと反省である。
昼ご飯もそこそこに稲刈りを再開するが、ぬかるむ田面に足を取られ、はかどらない。そこへ久太郎さんが軽トラから降りてくる。ゴム長にノコギリ鎌、どう見ても稲刈りの格好だ。
「とても見ちゃおれんから、手伝うわ」
申し訳ない気持ちと、嬉しい気持ちと、言葉では表せない気持ちになった。あとで政子さんも現れて、田んぼの管理の事やら、叱られながらの稲刈りとなった。叱られながらも不思議とイヤな気持ちにはならない。どちらかというと励まされているような気持ちになる。
夫婦二人で格闘している間は、正直、稲刈り作業が早く終わってほしいと思ってしまっていた。刈っても刈っても穂はわずか。労力がかかる割に、報われるものが少なかったからだ。
でも久太郎さん夫婦は違った。シカに倒された穂でも、しっかりついた穂をみつけると
「良い穂が稔ってる」と褒める。落ちている穂でも拾って腰の籠に入れる。他人が作った、自分とはなんの関係もないイネですら、大切に思い感謝し、心をこめながら収穫する。
それに引き替え自分はどうだ。自分の怠惰が原因で荒らしてしまった田んぼに対して、投げやりな気持ちになってしまって。。。。。自分の身勝手さに腹が立った。そして久太郎さん夫婦をはじめ、椋川の人たちのこころに改めて圧倒された。
今のままの生活では、何年椋川で暮らしたとしても、久太郎さんのような心を持てないだろう。でも少しでも、それに近づきたいという思いは強くなった。
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